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大林宣彦監督「映画は平和を未来に伝える手紙」と映画の持つ力に言及

大林宣彦監督『あの日の声を探して』は日本人が今観なくてはいけない映画
大林宣彦監督
[シネママニエラ]大林宣彦監督が「戦争を記憶し、伝えるためにこそ、映画は発明された。人間が人間らしく生きるための切実な“糧”だ。必見!」とコメントした、ミシェル・アザナヴィシウス監督の最新作『あの日の声を探して』を基に、「映画は平和を未来に伝える手紙」と、改めて映画の持つ力に言及した。

日本人が今観なくてはいけない映画

大林監督ご自身が経験された戦争体験を現代にも伝え続けていかねばならないという想いがあるゆえ、同作を日本人が今観なくてはいけない映画だと評価する。「(映画監督のおふたり)高畑勲や山田洋次と仲がよく、三人揃って戦争体験をしているわけなんだけども、僕らはその戦争体験を伝えていかなければいけないねと思っているわけです。世界のティーチ・インイベントで、必ず最初に『貴方の戦争体験は?』という質問がでる。それは素晴らしい質問で、それを聞けば監督が作品込めたメッセージや正体が全部わかってきます」

同作の注目ポイントについて、「(オリジナル作品とされる)フレッド・ジンネマン監督の映画『山河遥かなり』は戦争が終わって三年目の映画です。『山河遥かなり』のラストは離れ離れとなった親に再会し抱き合うというハッピーエンドで終わる。当時は戦争が終わったばかりで、ラストシーンが甘いという批判もでた。だけど、彼自身ユダヤ人で、実際に両親をホロコーストで殺され、一人で生き残ったという経験をしている。そんな彼だからこそ例え夢のようでも、ご都合主義だといわれても、そういった結末が、自分を含め多くの人の心を救うのだと、切実な想いで描いたのだろうと今は理解できるのです」と解説。

そして「ミシェル監督もユダヤ系のフランス人なんですね。この映画はただ殺戮を描きたかったわけではない。普通のロック好きの少年がちょとしたきっかけで軍に入れられ、次第に人を殺すようになる。戦争というものがどんなに人間を殺人鬼にしていくかということが描かれいます。それは現代を生きる人間としての重要なテーマです。ロシア兵が村の人々を殺すところをビデオカメラで撮影しているシーンから始まるのですが、実際にビデオカメラを回しているはミシェル監督自身なんです。これも重要なこと」だと分析。>>つづく

フランス・グルジア映画/135分
原題=THE SEARCH(2014) IMDb
日本公開=2015年4月24日
字幕翻訳=寺尾次郎
配給=ギャガ
公式サイト http://ano-koe.gaga.ne.jp/
©La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

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さらに「つまり、極悪非道の人間になった側のカメラを自分で回すというところで、現代の戦争体験を自らするわけなんです。そうしてようやく戦争の殺戮を描く資格が自分にできのだと納得してこの映画をつくつ資格を得るわけです。『山河遥かなり』はとてもシンプルです。もう戦争など二度としないようにという想いが込められている。しかし、それから二度も三度も戦争が起こっている。そして今、同じユダヤの血を引くミシェル監督がこの映画に着想を得て描く。戦争を体験して描いたフレッド・ジンネマン、現代のミシェル監督という部分を意識して、是非比較してご覧になったらいいと思います」と持論を展開する。

ミシェル・アザナヴィシウス監督『あの日の声を探して』に込めた思いを語る

映画の持つ力にも言及。「映画とはそもそも記録装置です。記録をするという意味では、ドキュメンタリーというのは大変な力をもっているものです。ただし、リアルな記録は風化されてしまう。なぜなら、辛いことはもうみたくない忘れたいと思うからです。忘れた方がいいこともある。実際に辛い体験をした人はそれでいい。しかし、同じ過ちを繰り返さない為には、自分たちの体験が風化されないよう伝える為には、映画を観るという喜びを感じながらの方が風化せずに伝わる。それが、フィクションのもつ力なんです。1948年の新聞を読みますか? 読まないですよね。しかし、1984年の「山河遥かなり』は今でも観るんですよね。そこに劇映画の力があるわけです」

その例えとして、「日本の作家がうまいことを言っています。「花も実もある絵空事」、「根も葉もある嘘八百」。つまり劇映画は、嘘なんだけど、真実以上の真を伝える力がある。ただそれが単なる絵空事にならないようにする為には、作家がどういう想いでこの作品をつくったかということが重要なのです」

「映画は感じるものだから観た人がそれぞれに感じてもらえればいいのだけれど、上手に感じる為には教養というものが必要。今それがあまりにも失われてしまった。それ故に「貴方の戦争体験は?」という質問に意味があるのです。『あの日の声を探して』はCGを使わず、実際に現地のエキストラたちを使って撮影をしている。それが、ミシェル監督のフィロソフィー。多くの人を撮影で動かすというのがどれほど大変なことか僕は知っている。だからこそこの映画に感動する。「嘘からでたまこと」をつくる為には、本当の汗を流して、一万人の衣装や食事を用意することが、この映画のアプローチ。チェチェン戦争を背景として、永遠の戦争に対する、平和に対する想いを描こうというところに彼の素晴らしさがある。そういう風に理解することが僕たちが観る理由であり、それは人事でも何でも無い」と締めくくった。

フランス・グルジア映画/135分
日本公開=2015年4月24日
配給=ギャガ
公式サイト http://ano-koe.gaga.ne.jp/
©La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

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