ジャン・デュジャルダン、映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(クロード・ルルーシュ監督)より

ジャン・デュジャルダン「映画『アンナとアントワーヌ』は人が自分をどう思うか考えず役に集中した」

映画インタビュー

[シネママニエラ]恋愛映画の最高傑作『男と女』(1966)で知られるクロード・ルルーシュ監督が大人の恋愛模様を描く映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』で、アントワーヌ役を演じたジャン・デュジャルダンが、オスカー受賞後の葛藤を交えて、撮影を振り返り、将来の展望を語った。

ジャン・デュジャルダン、
力車に乗るジャン・デュジャルダン
©2015 Les Films 13 – Davis Films – JD Prod – France 2 Cinéma

ジャン・デュジャルダン:このプロジェクトは、いろいろなことが素早く結びついたんだ。クロード・ルルーシュと(本作でアンナ役を演じた女優の)エルザ・ジルベルスタインと僕の3人が会った時、エルザと僕にはやりたい明確なアイデアがあった。僕らの頭にあったのはクロードの作品『あの愛をふたたび』(1970)の冒険版ラブストーリーで、地球の反対側で撮影するというものだった。するとクロードが、こんなアイデアを出してきた。「君はアントワーヌ・アベラールという作曲家で、エルザは外交官の妻だ」とね。これでチェスの駒ポーンはセットされた。インドが舞台という最高のアイデアも出てきた。旅は恋愛を育てるという、まさにクロードの世界だ。そこが彼の映画の好きなところだ。独自であり、皮肉を加えない。彼の映画はロマンチックでおかしくて、不合理で残酷だ。それは人生と似ている。クロード・ルルーシュと2人のキャラクターとインド…、もう映画は完成したようなものだ。

クロード・ルルーシュは僕が監督に期待するものをすべて兼ね備えている。彼は頭が柔らかく複合的な発想ができる人間で、俳優に裁量を与え、自由な演技や台詞の変更もいとわない。映画製作で私が好きなところは、クルーたちとそういう環境で2~3か月過ごせることだ。クロードもそんな環境が好きなんだよ。彼は映画製作を楽しんでいて、毎日のように自分の脚本に手を入れるんだ。撮影現場で監督が「(カメラを)回せ」、「アクション」、「カット」と叫んだのを聞いたことがない。ロケ移動やアイデア、撮影などでも独善的ではなかった。僕らが常に求めているものを見つけるために没頭して、なりふり構わなくなる。準備してきたもの、想定していたもの、押し殺していたものを放り投げて今まで不可能だと思っていたことをやらなければならない。限界だなんて気づく暇はない。だって、もう始まっているんだからね。

ジャン、クロード、エルザの3人、映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(クロード・ルルーシュ監督)撮影現場にて
映画『アンナとアントワーヌ 撮影現場にて
© 2015 Les Films 13 – Davis Films – JD Prod – France 2 Cinéma
インドについては何も知らなかったが、それが良かった。僕は何の先入観も持たずに、文化的なギャップを経験したかったんだけど、それは空港に降りた途端、始まったよ。僕の世間的イメージや人がどう思うかとか、自分はどうすべきで、どうすべきではないのかというようなことを考えるのを毎日、払拭しようとした。熟考は俳優にとって悪なんだ。僕は短いキャリアの中で素晴らしい経験をしてきたが、今回のようなやり方で演じたことがなかったので、感慨深いよ。あそこまで自分を解放したことがかなった。こんな映画は、後にも先にもないだろうね。クロードとの仕事は、僕にとっていいことずくめだった。撮影は3人のゲームだったんだ。クロードは僕の隣に立ち、僕が彼女に言うべき台詞を耳打ちしたが、その前に彼女には別のことを言いたかった。あれはすごくまごついたよ。僕らの仲は物語の中で同じように進行していたんだ。

僕は役を作り込むことはしない。どんなプロジェクトでも多少の違いはあるけれど、あんな自由な感覚、馬鹿なことを言えるという特別な楽しさは、しばらくぶりだった。何かが降りてきたような感覚で、クロードが喜ぶものだから彼を笑わせることだけを考えていた。するとエルザから機転を利かせた反応が返ってくる。そんなやり取りが続くんだ。一番最初の大使館のシーン以来、すぐにクロードは僕らのこのやり方を継続すべきだと気づいてくれたんだ。古典的な初対面のシーンだが、予想外の出来事と余談で僕らは親しくなる。僕のキャラクターは無頓着な人間だから、思い切って好き勝手にやれた。その相手としてエルザは、最高のパートナーだった。驚くようなシーンが生まれた。30分のディナーを即興で演じた時、誰もがそれぞれの人生を自由に演じた。どれもがつじつまが合っていて、みんなが行儀よく演じたんだが楽しんでいた。あれは驚きだったよ。

この映画のお陰で、大勢の中の1人に戻れ、楽しんで演じることができた。クロードは僕の重荷を取り除いてくれたんだ。僕は『アーティスト』で、アカデミー賞を受賞して神経過敏になっていたからね。プレッシャーと期待が大きすぎて、演じて楽しむという僕が一番好きな映画の世界から距離を置いていたんだ。とはいえ、絶えず自分が何をしているかを見ている部分が僕にはある。だから監督にはなりたいと思わない。というのも、セットで監督や共演者たちとの共同作業が大好きだからだ。いつもクロードは「自分が演じているのを忘れる瞬間を見つけろ」と言うけど、是非そうしたいね。その瞬間を追いかけ続けて、捕まえたいと思っている。でも、そんなことが起こるのは極めてまれだ。別に自分を卑下しているんじゃない。己を知っているだけだよ。

映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』は今の時代には非常に珍しいものを観客に見せるはずだ。この映画は映画館向けに、映画らしい感動を大きなスクリーンで観せるために作られたものだ。それも本物のインドが舞台で、決して絵ハガキ的な観光映画じゃない。本当のインドを舞台に感動的なストーリーがじっくり観られる。こんな作品は滅多にないよ。

映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』あらすじ

映画音楽家のアントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は、自分が作曲してきた映画の主人公のように、飄々とユーモアにあふれた人生を謳歌していた。そんな折、ボリウッド版『ロミオとジュリエット』作品の製作のためにインドを訪れた彼は、フランス大使の妻アンナ(エルザ・ジルベルスタイン)と出会う。

映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(ファントム・フィルム配給)は2016年9月3日[土]よりBunkamuraル・シネマほかにて公開

公式サイト http://anna-movie.jp/
映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』作品情報・予告編
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